SMBC日興証券株式会社さん(以下、敬称略)は「多様性の尊重」を経営理念に掲げ、多様な人財が働き甲斐を感じ、その能力を最大限に発揮できる職場環境の整備に向け、DE&I(Diversity,Equity&Inclusion)※の推進に取り組んでいます。
この「多様性の尊重」を具現化する取り組みとして、パラリンピック、デフリンピックを目指す障がい者アスリートを社員として雇用しています。2024年7月現在、総勢17名の世界トップレベルの障がい者アスリートが在籍しており、彼らの競技活動をサポートするとともに、社員や地域社会、お客さまとの交流を通し、障がい者スポーツや障がいへの理解を深める活動を積極的に実施しています。
この活動が評価され、東京都が毎年認定している「東京都スポーツ推進企業」において、令和5年度認定の全483社の中で、支援のカテゴリ―でモデル企業に初めて選出されました。
そこで、今回のSPOPITA REPORTでは、SMBC日興証券の障がい者アスリートの活動を通した多様性社会への取り組みについて、同社の担当者の方に詳しくお話を伺いました。
※DE&I(Diversity,Equity&Inclusion)
ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンは多様な個性を持つ人たちが集まり、それぞれの特性や状況に応じた公正な機会やリソースが提供され、お互いを理解し尊重し合うことを意味する。 |
今回お話を伺った
SMBC日興証券人事部DE&I推進室
木塚さん(左)と須藤室長(右)
障がい者アスリートの雇用・支援
-障がい者アスリートを雇用する経緯と、支援の内容について教えてください。
障がい者アスリートの雇用については2015年からスタートしています。経営理念に掲げる「多様性の尊重」、共生社会の実現、そして障がいのある方への理解や、障がいや年齢に関係なく生活や権利を保障された環境を作ることを意味する「ノーマライゼーション」の理解浸透策を検討する中で、パラ・デフアスリートの雇用に出会い、当初は数名の雇用からスタートし、数年かけて採用を拡大していきました。障がい者の雇用の取り組みは外からは見えにくいということもあり、見える化することが大切という認識のもとで、世界の頂点を目指すトップアスリートに焦点をあてて雇用を進めてまいりました。アスリートたちの活躍は経営理念の「多様性の尊重」のみならず、皆さん日々成長し続けるために精進し、努力していくという姿勢が、当社の経営理念の一つである「成長し続ける」を体現する存在になっています。
直近では、今年(2024年)5月に神戸で開催された世界パラ陸上に当社の障がい者アスリートが5名出場しました。東アジア初の開催ということもあり、全社員から応援メッセージを募ってメッセージ冊子を作成したり、Tシャツへ寄せ書きをしたり、実際に会場まで応援に行くなど、多くの社員を巻き込んで会社全体で大会を盛り上げることで、障がい者スポーツを知る、そして共生社会について考える機会になったと考えています。
また、今大会で齋藤由希子選手が砲丸投げで銅メダルを獲得してくれたので、今後、より多くの人に当社の障がい者アスリートの活躍を知ってもらえることを期待しています。
-雇用されているアスリートは普段どのような活動をされていますか。
アスリートは現状では競技専任のため、普段は各活動拠点にてトレーニングや大会への出場、地元の学校や企業向けの講演活動や各種メディア取材に専念しています。一方で当社の一員であるため、会社・アスリート同士の繋がりを深める目的で月に1回定例会をオンラインで実施し、皆で近況を報告しあっています。
一口に障がい者アスリートといっても、競技や障がいの種類が違うので、アスリート同士お互いの取り組みやトレーニング方法が良い刺激になっているだけでなく、モチベーションの保ち方や諦めない前向きなマインドセットの仕方など、私たちも気づきになるようなお話も多々あります。
また、アスリートが現役でいられる期間はそう長いわけではありません。私たちは彼ら全員を社員として雇用していますので、現役を引退したあとも当社で社会に貢献できるよう、セカンドキャリアの形成に向けてサポートをしていきたいです。
17人の障がい者アスリートが様々な競技で活躍
障がい者アスリートによる講演活動
-アスリートによる講演はどのようにされているのでしょうか。
講演依頼は、お客さまや学校、自治体など多岐にわたります。ご依頼をいただいた企業・自治体のご希望をお伺いし、可能な限りご希望のテーマや内容にあうアスリートを派遣できるよう調整しています。共生社会の実現など、障がいと自身の競技経験を踏まえて話すことが多いですが、対象は小学生から企業経営者等と幅広いので、講演の対象に応じて講演のテーマや内容を工夫し、臨機応変に対応するようにしています。
また、講演活動への取り組み方も多様です。登壇形式で講演するアスリートもいれば、車いすや義足等の体験会をメインにしているアスリートなど、講演一つとってもその形式や講演の内容は様々ですが、各自のやり方でその持ち味を生かし、自身の考えや障がいについての理解を深めるために取り組んでいます。これまでの講演活動により、地元の自治体や学校とリレーションがしっかりと形成されているアスリートは、年間数十件の講演依頼を受けるなど、競技活動と同じくらい大切な活動となっています。
さらに、社内向けにも部店や部署にアスリートが赴いて講演を行っており、ノーマライゼーションへの理解促進を図るとともに社員との交流を深めています。今年度の新たな取組みとして、新入社員の研修において、DE&Iの重要性や、当社での取り組み事例、各種制度・支援策を紹介するとともに、障がい者アスリート講演も研修内容に取り込むなど、より一層活動の幅を広げています。
-講演に参加された方の反応はいかがですか。
参加者からは、ありがたいことにアスリートへの応援など前向きなメッセージをいただくことが多いです。車いすバスケットボールの体験をした学校では参加者から好評で、引き続きリピートで依頼を受けているところもあります。一度講演などで接点を持ったアスリートはその後も、応援し続けてもらえる人が多いと思っています。
アスリートによる講演活動 自治体、学校、企業等を対象に精力的に実施している
(左)陸上:山下選手 (中央)アルペンスキー:三澤選手 (右)パワーリフティング:大堂選手
競技団体との提携
―競技団体と提携し、障がい者スポーツのボランティア活動にも取り組まれていると聞いています。
2015年から日本ブラインドサッカー協会とアカデミーパートナー契約を締結して、各種大会や、SMBC日興証券 ブラサカ・キッズトレーニングの運営スタッフとして社員がボランティア活動に参加しています。SMBC日興証券 ブラサカ・キッズトレーニングを開催することで、視覚障がいを持つ児童に運動する機会を提供しており、普段運動する機会に恵まれない児童にとっても貴重な経験になっていて、中には本格的に競技の道を目指す子もいるなど、将来の可能性を広げる一助になっていると感じています。
また、チームビルディングやDE&Iを深める一環として、社内でもブラインドサッカー体験を実施し、多くの社員が参加しました。見ているのと実際にやってみるのでは全然感覚が違っていて、音だけで瞬時に位置を判断する障がい者アスリートが、いかに空間を把握する能力が高いかを実感させられます。
これらの活動を通じて、障がい者と関わり、また自らも体験をすることによって、多様性の理解を深める良い機会になっているので、競技団体と提携する意義は大きいと思いました。
SMBC日興証券 ブラサカ・キッズトレーニングの様子
デフリンピックへの期待
―2025年には東京でデフリンピックが開催されますが、企業としてどのように取り組んでいきますか。
デフリンピックは、当社のアスリートも出場する可能性がある大きな大会ですので、社員を巻き込んで大会を盛り上げ、応援したいと思っています。東京大会の周知ポスターは、お客さまの出入りが多い会議室・応接室の目立つ場所に掲示し、社員・お客さまへの周知を図っています。
パラリンピックと比較してデフリンピックはメディアへの露出も少なく、その影響から、デフアスリートはメディアに取り上げていただく機会も少ないため、大会までに社内外問わず多くの方にデフリンピック、デフアスリートを認知してもらいたいと思っています。
個別のアスリートについて申し上げますと、前回のブラジル大会において、金メダル4つ、銀メダル3つの7つのメダルを獲得するなど目覚ましい活躍をしてくれた水泳の茨選手が当社には在籍しています。東京大会は自国開催となるため、当社のデフアスリートも思い入れのある大会ですので、各アスリートの皆さんの更なる活躍を期待しています。
その他、自治体や学校向けのデフアスリートによる講演や体験会のご依頼も承っていますので、今後、講演や体験会などでデフアスリートの露出の機会が増え、デフリンピックという大会や、聴覚障がいという「外見ではわかりにくい障がい」について、理解浸透を深め、共生社会の実現につなげる活動ができたらと思っております。
社内で周知されているデフリンピックのポスター 茨選手 東京大会でもメダルが期待される
多様性を尊重する社会に向けて
-最後に、多様性を尊重する社会の実現に向けて、今後、どのような活動を行っていくのか教えてください。
多様性を尊重する社会を実現するために当社はDE&Iの取り組みを成長戦略として認識し、推進をしています。社員一人ひとりが能力を最大に発揮できる環境を整えていくことで多様なバックグラウンドを持つ社員が、お互いの能力や個性を出し合って活躍することができ、イノベーションを生み出していけると思っています。
また、今のように予測不能な時代においては、多様な価値観や目線を取り入れることは、様々なリスクへの対応力を高めることにもつながり、持続的な企業価値の向上につながるものと認識しています。こうした背景から、今後もこのDE&Iの推進を会社の成長戦略として位置づけて取り組みを続け、企業やステークホルダーの持続的な発展に貢献していくつもりです。
さらに、このような取り組みを広く知ってもらうことで、社会全体で一人ひとりが異なる個性を持っていることや、誰もがマイノリティの要素を持っていることへの理解が進み、公正な機会やリソースが提供されることで、一人ひとりが能力を発揮できる多様性の社会が実現されていくのだと思っています。
これからも応援よろしくおねがいします!