澤邊元太さんがナビゲートする、
観客目線の東京辰巳国際水泳場
澤邊 元太(Konel)
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東京辰巳国際水泳場
スポーツやレクリエーションを楽しめる場所として手軽に利用できる、都立のスポーツ施設。実は、名建築が多いことでも知られています。ここでは、建築好きやスポーツ観戦好き、街歩き好きの方をナビゲーターとしてお迎えし、その人独自のスタジアムの楽しみ方を語っていただくことで、スポーツ利用だけではない施設の奥深い魅力を紹介します。ナビゲーターは、デジタル技術を用いた空間設計や映像制作を手がけているKonelの澤邊元太さん。観客との一体感を空間や映像でどのように演出されているのか、観客ファーストの空間設計が施された「東京辰巳国際水泳場」を巡っていただきました。
テレビ観戦ではわからない非日常感を満喫
僕はスポーツが大好きです。学生時代からバスケを続けていますが、スタジアムで観戦するのはバスケ、サッカー、野球、相撲など。特に相撲はスケジュールをチェックして地方巡業を見に行くくらい好きですね。
スポーツ好きの僕からすると、この東京辰巳国際水泳場は、とても観客の目線が考えられた建物です。特にこの観覧席から見える巨大な半円の窓。プールとつながるように窓があり、その向こうには曙運河が広がっているので、プールの水面と海が続いてシンクロしているような印象を受けます。ニクイ演出ですよね。一般的な施設ならプールを取り囲むように観覧席が造られるはずなのに、窓側にはシートが設けられていないところに建築家のこだわりを感じます。動員数を減らしてでも観客からの見え方を優先した造りは、竣工当時「劇場的空間」と称されていたそうですね。
窓の輪郭のとり方も凝っていて、まるで大きな壁画というか、ビルの壁面にあるデジタルサイネージで映し出された景色を見ているかのよう。窓の外の景色はもちろんデジタルではなくリアルですが、映像をつくる側の人間として非常に興味深い演出です。
こういった、いい意味でムダのある建築をつくるのは難しいと思うので、上向きな時代の巨匠クラスの建築家による建物は貴重だと思います。一般公開日なら、個人でも1日600円で利用できるところがすばらしいです!
スタジアム観戦の良さは、最寄駅に降り立ったときから始まります。駅から歩いて行くとスタジアムの外観が見えてきてそのアプローチでワクワク感が味わえる。僕は、水泳はテレビでしか見たことがなかったのですが、館内は温度管理がされていて、中に入ると熱気が肌で感じられることに驚きました。プールと観覧席の距離は思ったよりもずっと近く、選手の声や水の音など、お互いの気配を感じられます。現地に足を運ぶ醍醐味は、こういったテレビ観戦ではわからない非日常感を満喫できることにあります。スポーツは生で見たほうが断然、面白いですよね。
そういった意味でも、観覧席の傾斜はスポーツの空気感を左右する大事なポイントだと思います。広くゆるやかにシートが配置されるよりも、傾斜が強く、高さがあったほうが見る側の臨場感が高まって応援に熱が入ります。観客に包まれるような印象があるので、プレーヤーからしても気持ちが高まるはずです。この施設は、観覧席の傾斜や競技場といった建築の要素で、見る側とプレーする側の一体感を生み出すことに成功しているのではないでしょうか。
ちなみに、スポーツ観戦は、どんな楽しみ方をしたいか、誰と一緒に行くかによって席を選ぶのもポイント。例えば、ファン同士で盛り上がりたいなら、野球なら外野、サッカーだったらゴール裏。全体を把握したい、落ち着いて観戦したいときは、野球なら内野、サッカーならサイドの部分といった具合です。このプールなら、コーチの声や気配が間近に聞こえる最前列のシートが良さそうですね。
澤邊さんに教わる、「東京辰巳国際水泳場」ここを見て!
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● 半円の窓がプールに映り込んで円になる様子は必見。
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● 幾何学的な屋根を下からのぞけるエントランス部分にも注目。
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● 自分にとってベストな観覧席をチェック!
東京辰巳国際水泳場
設計は仙田満+環境デザイン研究所。1993年に竣工。
外観デザインは水面に羽ばたく水鳥のイメージをデザインし、5枚のアーチ状の屋根によって建物が覆われている。
観客席からプールを見ると、メガネのような2枚の窓によって外の水面とプールが一体と感じられるようなデザインとなっている。
<アクセス>
東京メトロ有楽町線「辰巳駅」徒歩10分
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