
パリ2024パラリンピックで2大会連続の金メダルを獲得した梶原大暉選手は、現在129連勝中(取材日時点)の“絶対王者”。パラスポーツの顔の一人としてロサンゼルス2028パラリンピックでの3連覇にも期待がかかります。
躍進を続ける梶原選手に、パラリンピックのこと、そしてパラバドミントンの魅力についてお話をうかがいました。
■練習を重ねることで自信を持って試合へ 大事な試合の朝はもずくスープを食べる
――「連覇確実」と期待されるなかで臨んだパリ2024パラリンピックは東京2020パラリンピックとどんな違いがありましたか?
東京の時よりも少なからず注目していただいていた分、多少のプレッシャーはありました。ただ、十分に練習をしてきたという自負もあったので、その成果をシングルスではしっかり出せたことが連覇につながったのかなと思います。
自分自身としては東京の時よりも、プレー面、精神面、全体的にレベルアップできたと感じました。
――東京2020パラリンピック以降も負けなしできて、勝ち続けるプレッシャーもあったと思います。周囲の期待も大きいなかでどのように重圧を乗り越えたのでしょうか?
個人的には連勝記録はそれほど気にしていないので、勝ち続けているということへのプレッシャーはありませんでした。
東京2020パラリンピックが終わってからはパリ2024パラリンピックで連覇することだけを意識して練習してきましたし、そのためにいろいろなサポートをしてもらってきたなかでの大会でしたから、もう優勝しかないという気持ちでした。不安や重圧を払しょくできたのは、十分にやってきたと思える練習がすべてだったかなと思います。

――有観客だったことが東京2020パラリンピックとは大きな違いでした。たくさんのお客さんの前でプレーした感想を教えてください。
あれだけの声援を受けて試合をするのは初めてで、格別なものでした。場所はフランスでしたが、アウェイ感はまったくないくらいお客さんが応援して盛り上がってくれて、すごく気持ちよく試合ができました。家族や会社の方も観に来てくれたなかで、いい結果をお見せすることができて、それが一番嬉しかったです。

――パラリンピックのような大きな大会に臨む際に、ルーティンや試合に臨むにあたっての準備で意識していることはありますか?
一番はしっかり練習をして自分に自信を持って臨むということですね。練習してきたものを出すことに集中して試合ができれば、おのずと結果はついてきます。
あとはルーティンと言えるかわかりませんが、大事な試合の日の朝ごはんでは必ずもずくスープを食べます。もずくスープが好きなんです(笑)。
――もずくスープの影響かはわかりませんが、梶原選手は現在129連勝中です。ここまで勝ち続けられる秘訣を自分なりに分析してもらえますか?
もちろん、勝つためにしっかりと練習をしていることが連勝の要因の一つではあります。それに加えて試合になると、自分で考えるだけでなく、コーチが的確なアドバイスをくれることも大きな力になっています。だから自分一人で連勝を伸ばしているわけではなく、コーチと一緒に考えながらやってきたという部分があるのかなと思います。

■目標はパラリンピック3連覇 夢はオリンピック選手に勝つこと
――ではパラバドミントンを始めたきっかけを教えてください。
中学2年生の時に事故で車いす生活になったのですが、高校生になって初めて見学したパラスポーツがパラバドミントンでした。その時に車いすの日本代表選手が練習をしていて、チェアワークに一目惚れしてカッコイイと思ったんです。それでこの競技をやりたいと思いました。
――チェアワークは現在の梶原選手の武器ですが、最初からそこに惹かれたわけですね。
はい。ただ、競技用の車いすを見たのもその時が初めてでしたし、実際にコートでやってみてもまったくうまくできませんでした。車いすの人となんとかラリーができるようになるまで3~4カ月はかかっています。とにかくチェアワークはこなさないとうまくならないので、平日の夜の練習では3時間のうち1時間はチェアワークに時間を費やしました。

――そうしたなかで、パラバドミントンを趣味ではなく、競技として上を目指したいと思ったきっかけは何があったのでしょうか?
パラバドミントンを始めて4~5カ月くらいの時に、地元(福岡県)の県民大会に出させてもらったのですが、全然勝てなかったことが一つのきっかけです。もっとうまくなりたいと思いました。
また、野球チームに在籍していた中学時代には「やるからにはてっぺんを目指そう」といつも言われていたので、その言葉を思い出して、やるからには上を目指したいなと思ったことも、きっかけになっています。
――競技者としてパラバドミントンの魅力はどんなところだと思いますか?
コートを挟めば障がいの有無に関係なく誰とでも練習ができて、一緒に打ち合って楽しめるところが魅力なのかなと思います。
競技として観る部分での魅力は、選手たちのチェアワークの違いです。車いすの場合、同じクラスでも障がいの微妙な違いによって10人の選手がいたら10通りのチェアワークがあると思っています。ブレーキの仕方やチェアの動かし方も人それぞれですし、自分の障がいに応じて動かしやすいように極めています。立位の選手でも、いろいろな障がいがあるので、障がいに適応したサーブの打ち方だったり、フットワークの仕方だったり、戦術もいろいろあります。そういう違いを意識して見てもらうとより楽しめると思います。

――車いすは自分用にカスタマイズするのですか?
自分の場合はわかりやすいところで言うと、左しか足を置くところはありません。細かいところでは、座面は真っすぐではなくて少したわませてお尻を包み込むような形にしています。自分はWH2クラス(下肢に軽度の障がいがあり、車いすを使用するクラス)では状態が良いほうではないので、背もたれはクラスの選手の中では高めだと思います。ベルトの位置はクロスさせるようにしています。どうやったら動きやすいかを考えてこの形になっています。
――車いすの微妙な違いが勝負に影響してくるわけですね。
背もたれのたわみが1センチ違うだけで全然違ってきますし、お尻の間隔が1センチずれるとまったく違いますね。タイヤの空気圧によってもチェアのブレーキングが変わってくるので、結構、繊細です。

――パラスポーツ、パラバドミントンの普及について思うことはありますか?
パラスポーツの中でもパラバドミントンはまだマイナーなスポーツで、あまり競技人口も多くはないと思います。より認知してもらうために、メディアに取り上げてもらったり、取材をしてもらったりして、いろんなところに出ていって選手に魅力を感じてもらうことが大事かなと思います。こうして取材をしていただける機会にパラバドミントンの魅力を伝えていきたいです。
――最後にパラリンピック2連覇という大きな目標を達成して、この先ご自身が描いている夢や、さらなる目標を教えてください。
目標としては、ロサンゼルス2028パラリンピックでのシングルス3連覇はもちろん、ダブルスでも金メダルを獲りたいと思っています。ダブルスはずっと中国に負け続けているので、ロサンゼルス2028パラリンピックでは中国に勝ってシングルスとダブルスの2冠を達成したいです。
連勝記録に関してはあまり気にしていないのですが、連勝を続けるとメディアで取り上げてもらえる機会が増えると思うので、今後も継続できたらと思います。
パラリンピックでの結果とは違う部分での夢は、この競技で、オリンピックの選手に車いすのコートで勝つことです。いつかそれを実現できるように、頑張っていけたらいいなと思います。

【プロフィール】
梶原 大暉(かじわら だいき)選手
2001年11月13日生まれ。福岡県出身。ダイハツ所属。13歳の時に交通事故で右大腿から下を失い、野球を断念。福翔高校時代にパラバドミントンと出会い、本格的に競技に取り組む。東京2020パラリンピックでは世界選手権4連覇中のキム・ジョンジュン選手に勝って金メダル獲得。パリ2024パラリンピックでもシングルスで優勝し、連覇を達成した。